3.Reunion #14
シンとアパートの前で別れ、一人戻ってきたチェギョン。
出掛けていくチェギョンを見送った側のチェ尚宮。
迎えに来たシンに連れ出されたのは、つい先程の事だ。
あまりに早いチェギョンの帰宅に、さすがに戸惑いを隠せないようだ。
「おかえりなさいませ、妃宮様。
もうお戻りでございますか?」
「・・・・・・・うん。」
「妃宮様?
殿下のお姿が見えないようでございます。
ご一緒ではないのでございますか?」
「・・・・・・・うん。」
チェ尚宮の問いかけに、短く肯定するだけのチェギョン。
困惑するチェ尚宮の姿も見えない様子でフラフラと前を通過、3人掛けソファの方へと近づいていくと、そのままゆっくりと腰を下ろす。
まるで、ここに心在らずといった風情だ。
「妃宮様?」
チェ尚宮は、チェギョンに向き直ると傍に控え、再び問いかけた。
が、“自失茫然”といった感じのチェギョンからの返事はまったくない。
一体いかがなされたのだろう━?
殿下の御姿がお見えにならないばかりか、このような妃宮様のご様子。
なぜお一人で?
また殿下とケンカでもされたのだろうか━?
チェギョンに聞きたいことは色々あるが、今の状態ではチェ尚宮の声すらも届かないようだ。
チェ尚宮は一度口を噤み、そのままチェギョンがアクションを起こすまで待った。
しばらくの間、その場を支配する静寂━。
壁の時計がコツコツと乾いた音を立てて時だけが刻まれていく。
ほんの1分が驚くほど遅々として、チェ尚宮には無限に長く感ぜられるのだった。
そんな中。
ようやくチェギョンが言葉を発したのだった。
「ねえ・・・・・・チェ尚宮お姉さん。」
「はい。妃宮様。」
“これから何か重大なことが告げられる”
そんな予感を持ちつつ、チェギョンからの次の言葉を待つチェ尚宮。
「私ね・・・・・・。」
「・・・・・。」
「シン君・・・・・。」
「!・・・・。」
「シン君に・・・・・。」
「・・・・・・(殿下に?)」
そこまでやっと言うと、下唇をキュッと噛みしめ俯くチェギョン。
昂る感情を押しとどめるかのように両手を胸に押し当て、再び口を開いた。
「プロポーズ・・・されちゃった・・・・・・。」
「・・・・・はっ?!」
「それで・・・・この指輪・・・・もらったの・・・・・。」
そう言うチェギョンの手には、確かに大事そうに指輪ケースが握られている。
チェ尚宮は思いも寄らない出来事に、小さく驚きの声を上げそうになったが、ギリギリのところで冷静さを保った。
「左様で御座いましたか。妃宮様。
それは大変ようございました。
心からお喜び申し上げます。」
「うん・・・・・・。」
「??」
どうも様子がおかしい。
相も変わらず、反応が鈍く、どこか上の空のチェギョン。
まるで一切の感情をどこかに置き忘れて来たかのようだ。
さすがにチェ尚宮はチェギョンの普段と違う様子に不安になってしまい、つい問いかける口調も強くなってしまう。
「妃宮様!?
一体どうされたのでございますか?!」
彼女からの滅多にない語気を強めた問いかけ。
それに僅かに反応を見せたチェギョンは、顔を上げると、今度はしっかりとチェ尚宮の方を見て口を開いた。
「・・・・・・ねえ。お姉さん・・・・・。
これって・・・・・・・・“夢”だよね?
私・・・・・・・“夢”を・・・・・また・・・見てるん・・・・・だよね?」
そう言うチェギョンは、本当に夢を見ているような顔つきだ。
その様子にホッと安堵の息を吐くチェ尚宮。
笑みを湛え、キッパリと告げるのだ。
「いえ。妃宮様。
これは“夢”ではございません。
現実でございます。」
「え?・・・・・・・“夢”じゃないの?????
ウソ?・・・・・本当に?」
「はい。媽媽。」
頭が混乱しているチェギョン。
まだ信じられないといった風に目を真ん丸にし、チェ尚宮を探る様に見ていたが、チェギョンは思いっきり自分の頬を抓った。
「い、痛ぁ~いっ!」
「妃宮様!」
痛さで慌てて頬を擦るチェギョン。
チェ尚宮は慌ててチェギョンの隣に駆け寄った。
「い、痛いッ!!
う、ウソ!?
夢じゃないの!?
これは本当のことなの?」
たった今、深い夢から覚めたかのように、感情を取り戻したチェギョンの2つの瞳から、じわ~っと涙が盛り上がってくる。
そんなチェギョンにチェ尚宮も感極まるのだった。
「妃宮様!
そうでございます!
現実でございます!
大変よろしゅうございました!
心よりお喜び申し上げます!!」
チェギョンの隣に座ると、何度も何度も大きく頷き、チェ尚宮も一緒に涙ぐむ。
先の見えない謹慎生活の中で、複雑な立場のチェギョンを陰で支え、今日まで過ごしてきたチェ尚宮だからこその涙だった。
夢じゃない━。
現実━。
シン君が、私にプロポーズしてくれた━。
やっと自分の中で、“プロポーズ”を現実と受け入れることができたチェギョン。
鼻の奥がツーンと痛み、目の縁から涙が次々と染み出てくるのだった。
「う、うえ~ん。
オンニ~!
どうしよう?私、どうしたらいいの?
私、シン君からプロポーズされてとっても嬉しい。
ずっと、ずっと待ってたから・・・。」
「はい。
左様で御座いますね。妃宮様。」
チェ尚宮はすっかり赤くなってしまった目で、優しくチェギョンを見守り相槌を打つ。
「それなのにシン君は何も言ってくれなくて・・・。
いつも不安だった・・・。
こんな私はシン君に相応しくないって。
離婚されても、放って置かれてもしょうがないって。
私の事、いつも申し訳なさそうに、罪悪感一杯の悲しい目で見るんだもん。
だから、もう韓国で廃妃の話があって、そのうち離婚しなくちゃいけないと、その覚悟をしていてくれと話をするためにここに来たんだって思っていたの。」
「左様でございましたか。妃宮様。」
チェ尚宮も涙を零しながら、チェギョンの話に懸命に耳を傾ける。
これらはすべてチェギョンがずっと抱え、一人隠し続けてきた“本心”。
一語一句、心に深く刻み込んでいくチェ尚宮。
「う、ひっく。
でも、怖い・・・・。
本当に私はシン君と一緒にいていいの?
私が一緒にいるとシン君までみんなに悪く言われちゃう。
私、絶対にまたシン君の足を引っ張っちゃう。
私はずっとこの先もここにいた方がいいんじゃないのかなって、そう思ったりもするの。
シン君の幸せのため、私とはもう縁を切った方がいいんじゃないかって。
あの写真の女の人みたいに、ちゃんとしたお家の人とやり直した方が、いいんじゃなかって。
だって、私たちは違い過ぎる、でしょ?」
「!!
何をおっしゃいます!妃宮様!」
子供の様に泣きながら、次々と心中を告白していくチェギョン。
チェ尚宮はこの数カ月間、寂しさと不安に耐えながらも、懸命に努力してきたチェギョンを傍で見守り支えて来た人間として、強く強く否定する。
が、首を横に振りながらチェギョンはさらに続けた。
「オンニは知ってるでしょ?
私とシンくんは結婚しても、本当の意味でまだ夫婦じゃなかった。
そんな関係じゃないの。
今だったら、まだ引き返せる。
いくらでも2人ともやり直せる。」
「妃宮様。
そのようなこと、断じて御座いません。
私は存じております。
いかに殿下が、この地に身を置くことになられた妃宮様にお心をお砕きになって来られたか。
その身を案じ、御心を痛めておいでであったか。
殿下に限って、この先妃宮様以外の女性に心を奪われることも御座いません。」
「・・・・・・・・・ううっ。ひっく。」
「妃宮様!
ご自身のお幸せを第一にお考えください!
自分の御心を素直にお見せになるのです。
殿下が、今妃宮様が不安に思っていらっしゃることを、すべて受け止めてくださいます。
今こそ、勇気と自信をお持ちくださいませ!」
チェ尚宮の必死の説得に、チェギョンは小さく何度も頷くだけで精一杯だったが、やっと口を開くのだった。
「・・・・・・・・・うん。
私、よく考えてみる。
少し一人になりたい。
お姉さん、私、今日一日部屋に籠ってもいい?」
「畏まりました。媽媽。」
手にしていたダークブラウンの指輪のケースを胸に引き寄せ、チェギョンは泣きながら階段を上り、自室へと消えて行った。
その後ろ姿を立って見送るチェ尚宮。
「妃宮様。
殿下の御心をお受け止めになり、どうかどうか、ありのままの御心を殿下に見せくださいませ。」
チェ尚宮は赤い目でチェギョンを見送り、祈るような気持ちで、一礼をするのだった。
一方のシン。
チェギョンと別れ、憂鬱な気分でリュ家の別荘に直帰した。
先ほどのプロポーズシーンがシンの脳裏に何度もリピートする。
今日、チェギョンから『OK』がもらえなかった。
そればかりか、戸惑った表情すらも見せていたチェギョン。
エンジンを切った後も、ぼんやり虚空を見つめ、車から降りることができない。
やっと踏ん切りがつき、鉛のように重くなってしまった体をノロノロと動かし、車外へ出て運転席のドアを力任せに閉めるシン。
そこへ。
その傍へ一人の若い男が忍び寄り、静かに片膝を着き跪いた。
「・・・ゴヌか?」
「はっ殿下。」
「・・・・例の件か?」
「はい。」
「やはり、そうだったか?」
「はい。おそらく。」
「・・・・・・。」
「運転手は韓国人。
すでに潜伏先は特定済。
ナンバーから所有者の特定を急いでおります。
手がかり、または証拠を掴み次第、殿下にご報告致します。」
「分かった。
その件は引き続きおまえにすべて任せる。」
「畏まりました。殿下。」
話は終わったが、なかなか去ろうとしないゴヌ。
シンは訝しげにゴヌを見遣る。
「???まだ何かあるのか?」
「はい。殿下。
例の写真を撮ったカメラマンが再び動き出しました。」
「!
ハン・スンジェとの写真を撮った者か?」
「左様でございます。殿下。
昨日は妃宮様の通われていらっしゃるA&Zアートアカデミー周辺をウロついておりました。」
「・・・まだ、諦めてない、そういうことだな?」
「はい。殿下。そのようでございます。」
シンはズボンのポケットに手を突っ込みチッと舌打ちをする。
「おまえの言いたいことは分かった。
・・・・・・・・・・行け。」
「はっ。殿下。」
ゴヌは来た時のように、すっと消えた━。
しばらくシンはその場に立ち尽くす。
誰かが、チェギョンを狙っている━。
あの図書館前で猛スピードで突っ込んできた車は。
明らかにチェギョン一人を狙っていたのだから。
あの一瞬でも車のナンバーを記憶していたシン。
不審に思ったシンはゴヌに連絡を取り、調べさせたという訳なのだ。
チェギョンの身が危険に曝されている━。
自分と関わりを持つことで、いつでも注目されてしまっていたが、今度は命すら狙われている事実にシンはさらなる衝撃を受ける。
生まれてこのかた、一度だってこんなに悩み必死になったことはないと思う。
望めばすべて叶う環境で育ち、望んでも叶わない種類の物は自分で欲求を遮断する術を知っていたから。
だが、これは違う。
万一、チェギョン、おまえを失ってしまったら、そんな悲惨なことになったら━。
僕はもう僕でいられなくなる━。
だが、僕はやはりチェギョンの手を離すしかないのか━。
仕来りに雁字搦めにされた窮屈な宮での暮らしを、再びチェギョンが望むとも思えない。
彼女の未来を、幸せを考えれば考えるほど、自分とは無関係で生きていくことが最善なのだと思えてくる。
それにここにきて、命まで狙われている可能性が浮上してきたのだから。
あいつは自由がよく似合う。
太陽の下、その翼で大きく羽ばたいて、どこまでも夢を追いかけて飛ぶんだ。
そこに僕との未来は、ない。
チェギョン自身が望んでいるのであれば、潔く受け入れなくては、な。
憂いを帯びた目で眩しそうに空を見上げるシン。
そして踵を返し、自室へと戻って行ったのだった。
その頃。
太上皇母陛下パクは韓国の女王陛下ヘミョンと電話中だ。
「おばあ様。その後どう?シンたちの様子は?」
ヘミョンはワクワクした、だがなぜかヒソヒソ声でこう切り出した。
「それが、な。
シンがあまりにも不器用で不甲斐なく、未だ妃宮と心を通わすことができてないようなのだ。」
「ええ~っ!
この期に及んで、一体どういうつもり?
ここまでお膳立てしてあげたのに!
もう時間がないのよ!
宋親会は、すぐさま文句を言ってきたわよ!
“マカオ行きを許可するとは、許し難し!”ってね。」
ヘミョンは怒りで、先程までの控えめな声をは打って変わって荒げる。
「ふむ。
宋親会はやはり何かと邪魔立てしてくるのだな。
先帝の御遺志をなんと心得ておるのか。」
「2人にはそろそろラブラブモードに入ってもらわないと、時間切れして、計画がおじゃんよ!
おばあ様!」
「うむ。
それ故、今朝ほど、私もシンの背中を押したのだ。
今頃シンは妃宮の元へ行き、求愛していることであろう。」
「・・・・だといいけど。
シンの事だもの、ちゃんと『愛してる』って言えなくて、意地悪ばっかりしてるんじゃないの!?」
ヘミョンはまるですべてを見ていたかのような口ぶりだ。
「おばあ様!こうなったら遠慮は無用よ!
2人が一刻も早く超ラブラブムードになるように、トコトンけしかけて!」
「ほほほ・・・。
それは面白そうなことだな。
して、ヘミョン。
そなたに何か秘策はあるのか?」
「そうねぇ・・・・・・・あ!
おばあ様、話している途中でごめんなさい!
コン内官が私を探しに来ちゃった!
執務を放っぽり出して、トイレに逃げてきて電話をかけているの。」
「なんと!」
「ってことで、電話、切ります!
プッ・・・・ツーツーツー・・・・・」
ヘミョンの電話は慌ただしく切れた。
パクはしばらく電話をみつめ、思案する。
「作戦、とな・・・・・。
やはり、まずは・・・・」
パクはワクワクした表情となり、部屋の隅に控えている尚宮に声を掛ける。
そして、再びどこかへ電話を掛けるのであった。
こんにちは♪
akiです。
本日『3.Reunion #14 葛藤』UPしました。
よろしくお願いします(^^)
「少し考えさせて・・・・。」
ドラマの中で、シン君のプロポーズに、こう言ったチェギョン。
akiはこの返事、納得できませんでした。
即OKしないのはなぜ?と。
チェギョンの葛藤。
ものすごく深いと思います。
1回目は実家の家族のことを思い結婚を決意しましたが、今度はシンと宮家の家族のことを思い、結婚に踏み切れないワケです。
家族を何よりも大切にするチェギョンだからこそ、ですよね。
さて。
お気づきの方もいらっしゃると思いますが、今回またも「らぶきょん」のセリフを引用させてもらいましたが、どこかわかりました?
『生まれてこのかた、一度だってこんなに悩み必死になったことはないと思う。
望めばすべて叶う環境で育ち、望んでも叶わない種類の物は自分で欲求を遮断する術を知っていたから。
だが、これは違う。
万一、チェギョン、おまえを失ってしまったら、そんな悲惨なことになったら━。
僕はもう僕でいられなくなる━。』
このシン君のセリフです☆
ユルの陰謀からシンを守るため、離婚を決意したチェギョン。
チェギョンを手放したくないシンが必死に懇願するところでのセリフですね。
切なさ度数数割UPで駆け抜けたいakiです☆
出掛けていくチェギョンを見送った側のチェ尚宮。
迎えに来たシンに連れ出されたのは、つい先程の事だ。
あまりに早いチェギョンの帰宅に、さすがに戸惑いを隠せないようだ。
「おかえりなさいませ、妃宮様。
もうお戻りでございますか?」
「・・・・・・・うん。」
「妃宮様?
殿下のお姿が見えないようでございます。
ご一緒ではないのでございますか?」
「・・・・・・・うん。」
チェ尚宮の問いかけに、短く肯定するだけのチェギョン。
困惑するチェ尚宮の姿も見えない様子でフラフラと前を通過、3人掛けソファの方へと近づいていくと、そのままゆっくりと腰を下ろす。
まるで、ここに心在らずといった風情だ。
「妃宮様?」
チェ尚宮は、チェギョンに向き直ると傍に控え、再び問いかけた。
が、“自失茫然”といった感じのチェギョンからの返事はまったくない。
一体いかがなされたのだろう━?
殿下の御姿がお見えにならないばかりか、このような妃宮様のご様子。
なぜお一人で?
また殿下とケンカでもされたのだろうか━?
チェギョンに聞きたいことは色々あるが、今の状態ではチェ尚宮の声すらも届かないようだ。
チェ尚宮は一度口を噤み、そのままチェギョンがアクションを起こすまで待った。
しばらくの間、その場を支配する静寂━。
壁の時計がコツコツと乾いた音を立てて時だけが刻まれていく。
ほんの1分が驚くほど遅々として、チェ尚宮には無限に長く感ぜられるのだった。
そんな中。
ようやくチェギョンが言葉を発したのだった。
「ねえ・・・・・・チェ尚宮お姉さん。」
「はい。妃宮様。」
“これから何か重大なことが告げられる”
そんな予感を持ちつつ、チェギョンからの次の言葉を待つチェ尚宮。
「私ね・・・・・・。」
「・・・・・。」
「シン君・・・・・。」
「!・・・・。」
「シン君に・・・・・。」
「・・・・・・(殿下に?)」
そこまでやっと言うと、下唇をキュッと噛みしめ俯くチェギョン。
昂る感情を押しとどめるかのように両手を胸に押し当て、再び口を開いた。
「プロポーズ・・・されちゃった・・・・・・。」
「・・・・・はっ?!」
「それで・・・・この指輪・・・・もらったの・・・・・。」
そう言うチェギョンの手には、確かに大事そうに指輪ケースが握られている。
チェ尚宮は思いも寄らない出来事に、小さく驚きの声を上げそうになったが、ギリギリのところで冷静さを保った。
「左様で御座いましたか。妃宮様。
それは大変ようございました。
心からお喜び申し上げます。」
「うん・・・・・・。」
「??」
どうも様子がおかしい。
相も変わらず、反応が鈍く、どこか上の空のチェギョン。
まるで一切の感情をどこかに置き忘れて来たかのようだ。
さすがにチェ尚宮はチェギョンの普段と違う様子に不安になってしまい、つい問いかける口調も強くなってしまう。
「妃宮様!?
一体どうされたのでございますか?!」
彼女からの滅多にない語気を強めた問いかけ。
それに僅かに反応を見せたチェギョンは、顔を上げると、今度はしっかりとチェ尚宮の方を見て口を開いた。
「・・・・・・ねえ。お姉さん・・・・・。
これって・・・・・・・・“夢”だよね?
私・・・・・・・“夢”を・・・・・また・・・見てるん・・・・・だよね?」
そう言うチェギョンは、本当に夢を見ているような顔つきだ。
その様子にホッと安堵の息を吐くチェ尚宮。
笑みを湛え、キッパリと告げるのだ。
「いえ。妃宮様。
これは“夢”ではございません。
現実でございます。」
「え?・・・・・・・“夢”じゃないの?????
ウソ?・・・・・本当に?」
「はい。媽媽。」
頭が混乱しているチェギョン。
まだ信じられないといった風に目を真ん丸にし、チェ尚宮を探る様に見ていたが、チェギョンは思いっきり自分の頬を抓った。
「い、痛ぁ~いっ!」
「妃宮様!」
痛さで慌てて頬を擦るチェギョン。
チェ尚宮は慌ててチェギョンの隣に駆け寄った。
「い、痛いッ!!
う、ウソ!?
夢じゃないの!?
これは本当のことなの?」
たった今、深い夢から覚めたかのように、感情を取り戻したチェギョンの2つの瞳から、じわ~っと涙が盛り上がってくる。
そんなチェギョンにチェ尚宮も感極まるのだった。
「妃宮様!
そうでございます!
現実でございます!
大変よろしゅうございました!
心よりお喜び申し上げます!!」
チェギョンの隣に座ると、何度も何度も大きく頷き、チェ尚宮も一緒に涙ぐむ。
先の見えない謹慎生活の中で、複雑な立場のチェギョンを陰で支え、今日まで過ごしてきたチェ尚宮だからこその涙だった。
夢じゃない━。
現実━。
シン君が、私にプロポーズしてくれた━。
やっと自分の中で、“プロポーズ”を現実と受け入れることができたチェギョン。
鼻の奥がツーンと痛み、目の縁から涙が次々と染み出てくるのだった。
「う、うえ~ん。
オンニ~!
どうしよう?私、どうしたらいいの?
私、シン君からプロポーズされてとっても嬉しい。
ずっと、ずっと待ってたから・・・。」
「はい。
左様で御座いますね。妃宮様。」
チェ尚宮はすっかり赤くなってしまった目で、優しくチェギョンを見守り相槌を打つ。
「それなのにシン君は何も言ってくれなくて・・・。
いつも不安だった・・・。
こんな私はシン君に相応しくないって。
離婚されても、放って置かれてもしょうがないって。
私の事、いつも申し訳なさそうに、罪悪感一杯の悲しい目で見るんだもん。
だから、もう韓国で廃妃の話があって、そのうち離婚しなくちゃいけないと、その覚悟をしていてくれと話をするためにここに来たんだって思っていたの。」
「左様でございましたか。妃宮様。」
チェ尚宮も涙を零しながら、チェギョンの話に懸命に耳を傾ける。
これらはすべてチェギョンがずっと抱え、一人隠し続けてきた“本心”。
一語一句、心に深く刻み込んでいくチェ尚宮。
「う、ひっく。
でも、怖い・・・・。
本当に私はシン君と一緒にいていいの?
私が一緒にいるとシン君までみんなに悪く言われちゃう。
私、絶対にまたシン君の足を引っ張っちゃう。
私はずっとこの先もここにいた方がいいんじゃないのかなって、そう思ったりもするの。
シン君の幸せのため、私とはもう縁を切った方がいいんじゃないかって。
あの写真の女の人みたいに、ちゃんとしたお家の人とやり直した方が、いいんじゃなかって。
だって、私たちは違い過ぎる、でしょ?」
「!!
何をおっしゃいます!妃宮様!」
子供の様に泣きながら、次々と心中を告白していくチェギョン。
チェ尚宮はこの数カ月間、寂しさと不安に耐えながらも、懸命に努力してきたチェギョンを傍で見守り支えて来た人間として、強く強く否定する。
が、首を横に振りながらチェギョンはさらに続けた。
「オンニは知ってるでしょ?
私とシンくんは結婚しても、本当の意味でまだ夫婦じゃなかった。
そんな関係じゃないの。
今だったら、まだ引き返せる。
いくらでも2人ともやり直せる。」
「妃宮様。
そのようなこと、断じて御座いません。
私は存じております。
いかに殿下が、この地に身を置くことになられた妃宮様にお心をお砕きになって来られたか。
その身を案じ、御心を痛めておいでであったか。
殿下に限って、この先妃宮様以外の女性に心を奪われることも御座いません。」
「・・・・・・・・・ううっ。ひっく。」
「妃宮様!
ご自身のお幸せを第一にお考えください!
自分の御心を素直にお見せになるのです。
殿下が、今妃宮様が不安に思っていらっしゃることを、すべて受け止めてくださいます。
今こそ、勇気と自信をお持ちくださいませ!」
チェ尚宮の必死の説得に、チェギョンは小さく何度も頷くだけで精一杯だったが、やっと口を開くのだった。
「・・・・・・・・・うん。
私、よく考えてみる。
少し一人になりたい。
お姉さん、私、今日一日部屋に籠ってもいい?」
「畏まりました。媽媽。」
手にしていたダークブラウンの指輪のケースを胸に引き寄せ、チェギョンは泣きながら階段を上り、自室へと消えて行った。
その後ろ姿を立って見送るチェ尚宮。
「妃宮様。
殿下の御心をお受け止めになり、どうかどうか、ありのままの御心を殿下に見せくださいませ。」
チェ尚宮は赤い目でチェギョンを見送り、祈るような気持ちで、一礼をするのだった。
一方のシン。
チェギョンと別れ、憂鬱な気分でリュ家の別荘に直帰した。
先ほどのプロポーズシーンがシンの脳裏に何度もリピートする。
今日、チェギョンから『OK』がもらえなかった。
そればかりか、戸惑った表情すらも見せていたチェギョン。
エンジンを切った後も、ぼんやり虚空を見つめ、車から降りることができない。
やっと踏ん切りがつき、鉛のように重くなってしまった体をノロノロと動かし、車外へ出て運転席のドアを力任せに閉めるシン。
そこへ。
その傍へ一人の若い男が忍び寄り、静かに片膝を着き跪いた。
「・・・ゴヌか?」
「はっ殿下。」
「・・・・例の件か?」
「はい。」
「やはり、そうだったか?」
「はい。おそらく。」
「・・・・・・。」
「運転手は韓国人。
すでに潜伏先は特定済。
ナンバーから所有者の特定を急いでおります。
手がかり、または証拠を掴み次第、殿下にご報告致します。」
「分かった。
その件は引き続きおまえにすべて任せる。」
「畏まりました。殿下。」
話は終わったが、なかなか去ろうとしないゴヌ。
シンは訝しげにゴヌを見遣る。
「???まだ何かあるのか?」
「はい。殿下。
例の写真を撮ったカメラマンが再び動き出しました。」
「!
ハン・スンジェとの写真を撮った者か?」
「左様でございます。殿下。
昨日は妃宮様の通われていらっしゃるA&Zアートアカデミー周辺をウロついておりました。」
「・・・まだ、諦めてない、そういうことだな?」
「はい。殿下。そのようでございます。」
シンはズボンのポケットに手を突っ込みチッと舌打ちをする。
「おまえの言いたいことは分かった。
・・・・・・・・・・行け。」
「はっ。殿下。」
ゴヌは来た時のように、すっと消えた━。
しばらくシンはその場に立ち尽くす。
誰かが、チェギョンを狙っている━。
あの図書館前で猛スピードで突っ込んできた車は。
明らかにチェギョン一人を狙っていたのだから。
あの一瞬でも車のナンバーを記憶していたシン。
不審に思ったシンはゴヌに連絡を取り、調べさせたという訳なのだ。
チェギョンの身が危険に曝されている━。
自分と関わりを持つことで、いつでも注目されてしまっていたが、今度は命すら狙われている事実にシンはさらなる衝撃を受ける。
生まれてこのかた、一度だってこんなに悩み必死になったことはないと思う。
望めばすべて叶う環境で育ち、望んでも叶わない種類の物は自分で欲求を遮断する術を知っていたから。
だが、これは違う。
万一、チェギョン、おまえを失ってしまったら、そんな悲惨なことになったら━。
僕はもう僕でいられなくなる━。
だが、僕はやはりチェギョンの手を離すしかないのか━。
仕来りに雁字搦めにされた窮屈な宮での暮らしを、再びチェギョンが望むとも思えない。
彼女の未来を、幸せを考えれば考えるほど、自分とは無関係で生きていくことが最善なのだと思えてくる。
それにここにきて、命まで狙われている可能性が浮上してきたのだから。
あいつは自由がよく似合う。
太陽の下、その翼で大きく羽ばたいて、どこまでも夢を追いかけて飛ぶんだ。
そこに僕との未来は、ない。
チェギョン自身が望んでいるのであれば、潔く受け入れなくては、な。
憂いを帯びた目で眩しそうに空を見上げるシン。
そして踵を返し、自室へと戻って行ったのだった。
その頃。
太上皇母陛下パクは韓国の女王陛下ヘミョンと電話中だ。
「おばあ様。その後どう?シンたちの様子は?」
ヘミョンはワクワクした、だがなぜかヒソヒソ声でこう切り出した。
「それが、な。
シンがあまりにも不器用で不甲斐なく、未だ妃宮と心を通わすことができてないようなのだ。」
「ええ~っ!
この期に及んで、一体どういうつもり?
ここまでお膳立てしてあげたのに!
もう時間がないのよ!
宋親会は、すぐさま文句を言ってきたわよ!
“マカオ行きを許可するとは、許し難し!”ってね。」
ヘミョンは怒りで、先程までの控えめな声をは打って変わって荒げる。
「ふむ。
宋親会はやはり何かと邪魔立てしてくるのだな。
先帝の御遺志をなんと心得ておるのか。」
「2人にはそろそろラブラブモードに入ってもらわないと、時間切れして、計画がおじゃんよ!
おばあ様!」
「うむ。
それ故、今朝ほど、私もシンの背中を押したのだ。
今頃シンは妃宮の元へ行き、求愛していることであろう。」
「・・・・だといいけど。
シンの事だもの、ちゃんと『愛してる』って言えなくて、意地悪ばっかりしてるんじゃないの!?」
ヘミョンはまるですべてを見ていたかのような口ぶりだ。
「おばあ様!こうなったら遠慮は無用よ!
2人が一刻も早く超ラブラブムードになるように、トコトンけしかけて!」
「ほほほ・・・。
それは面白そうなことだな。
して、ヘミョン。
そなたに何か秘策はあるのか?」
「そうねぇ・・・・・・・あ!
おばあ様、話している途中でごめんなさい!
コン内官が私を探しに来ちゃった!
執務を放っぽり出して、トイレに逃げてきて電話をかけているの。」
「なんと!」
「ってことで、電話、切ります!
プッ・・・・ツーツーツー・・・・・」
ヘミョンの電話は慌ただしく切れた。
パクはしばらく電話をみつめ、思案する。
「作戦、とな・・・・・。
やはり、まずは・・・・」
パクはワクワクした表情となり、部屋の隅に控えている尚宮に声を掛ける。
そして、再びどこかへ電話を掛けるのであった。
こんにちは♪
akiです。
本日『3.Reunion #14 葛藤』UPしました。
よろしくお願いします(^^)
「少し考えさせて・・・・。」
ドラマの中で、シン君のプロポーズに、こう言ったチェギョン。
akiはこの返事、納得できませんでした。
即OKしないのはなぜ?と。
チェギョンの葛藤。
ものすごく深いと思います。
1回目は実家の家族のことを思い結婚を決意しましたが、今度はシンと宮家の家族のことを思い、結婚に踏み切れないワケです。
家族を何よりも大切にするチェギョンだからこそ、ですよね。
さて。
お気づきの方もいらっしゃると思いますが、今回またも「らぶきょん」のセリフを引用させてもらいましたが、どこかわかりました?
『生まれてこのかた、一度だってこんなに悩み必死になったことはないと思う。
望めばすべて叶う環境で育ち、望んでも叶わない種類の物は自分で欲求を遮断する術を知っていたから。
だが、これは違う。
万一、チェギョン、おまえを失ってしまったら、そんな悲惨なことになったら━。
僕はもう僕でいられなくなる━。』
このシン君のセリフです☆
ユルの陰謀からシンを守るため、離婚を決意したチェギョン。
チェギョンを手放したくないシンが必死に懇願するところでのセリフですね。
切なさ度数数割UPで駆け抜けたいakiです☆

