初雪vol.4

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「ねえねえ!シン君!
 あっち!あっちに行きたい!」



わくわくした顔を見せ、シンの腕を強引に引っ張り、先を急ぐチェギョン。



「おいっ!
 勝手に一人で行くなよ!
 手を放すな!迷子になるぞ!」
「えへへ!ダイジョウブ!
 ねえ?シン君!
 キレイだね~!
 折角だから、“新踏鉄橋”まで行ってみない?」
「“新踏鉄橋”?」
「うん!
 ここからだと・・・・・22番目の橋だね!」



パンフレットを見ながらニッコリと笑うチェギョン。

思わずその可愛いらしさに「うん」と首を縦に振りそうになるが、横から覗き込んだところには『清渓広場から新踏鉄橋までを結ぶ総距離5.84kmの区間・・・』『徒歩2時間半』と書いてあるではないか!


そんなもので貴重な時間を潰して堪るか!

それに疲れたらどうするんだ!
おまえはいつでも先に夢の世界へ旅立つだろう?!
さっさと僕を置いて!



「却下!」
「ええええええ?」
「却下だ!
 ほら、行くぞ!」
「んもうっ!シン君の皇子病!」



そう言いムクれるチェギョンの手を掴み、自分のダウンジャケットのポケットの中へと押し込め、スタスタと歩き出すシン。

即NGを言い渡され、ブツブツ文句を言うチェギョンだったが、この思わぬシンの行動にくすぐったいような、心がホンワカと温かい気持ちになる。



まるで本当に恋人同士みたい━。



チェギョンはシンを握る手にキュッと力を込め、斜め上のシンの顔を見上げる。


大好き━。
そう伝えたくて。



するとそれに反応し、シンも返事をするかのようにチェギョンの手を握り返し、優しく見つめ返してくるのだ。






夜になり冷え込みが厳しい中、清渓川(チョンゲチョン)へとやってきたシンとチェギョン。




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シンが会見で堂々と宣言した“初雪デート”を実行すべく、わざわざこんなところへとやってきた、という訳だ。












一度、女王陛下である姉ヘミョンの元へ、今回の公務の成果報告をしに、皇帝殿へと上がった2人。
ヘミョンは暫く聞き役に徹した。


会見途中、言葉に詰まったチェギョンと、あのような“サプライズ”をやってのけたシン。


チェギョンに言いたいことは色々とあったヘミョンだが、晴れて迎えた単独公務の記念すべき第一歩だ。
“キムジャン”も成功だった。
問題の記者会見に関しても、これから先ゆっくりと経験を積めばいいのだから、と、今日のこの場では敢えて苦言は呈すまいと、こちらはスルーすることにした。



それよりも・・・・・!



「━それで?」



2人の公務報告を聞き終えたヘミョン。
腕組みをしながら、ターゲット=シンを睨み返す。



「“それで?”とは?
 陛下。
 僕のご報告は以上ですが?」



シンはシラッとした顔で、平然と答える。
その横では、チェギョンがハラハラした顔で、2人の様子を窺っている。



漂う微妙な空気━。
また姉弟ケンカが始まるの?



どうにも嫌な予感がするチェギョン。



あの時はそんなつもりはなくてもヘミョンの肩を持ったことで、シンを傷つけ、結果超不機嫌にさせてしまった。
その後1週間続いた夜の寵愛。


それでも訓育と大学の授業は待ってくれなくて、決められたスケジュールは消化しなくてはならなかった━。


明らかに日々疲れていく私と、日々活力漲るシン君を見比べ、なんとな~く察してくれた人物2名。
チェ尚宮お姉さんとガンヒョンだ。



私の身に何が起こっているのか/////。
そんなに分かりやすかったの/////?



ガンヒョンは『シン・チェギョン、ファイティン!』と真っ赤な顔でエールを送ってくれ、それ以降、微妙な顔はするものの、あれこれ詮索はして来なかった/////。


さすが我が親友!
私のコトよく理解してくれているなあ、と、ガンヒョンの心遣いが恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。



それに対しチェ尚宮お姉さんはというと、この慶事(?)を鋭く察するや否や、おばあ様である太上皇母陛下にご報告されたのだ。



『ついにシンが曾孫をつくるべく本気になってくれた━!』


このことをお知りになられたおばあ様は俄然張り切り、太医院へと指示をお出しになられたことで、“気を補う”とか、“滋養強壮”目的とか、“血や水の流れを促進する効果”がある、“体を温める”etc・・・所謂“妊娠しやすくある”と言われる、ありとあらゆる漢方薬を私が賜ることになってしまった!


うわ~んっ!!


チェ尚宮の監視下、正直“美味しい”とはとても言えない漢方薬を、1滴残さず毎回飲む羽目になり、もう本当に泣きそうだった(いや本当に泣いた日もあった)し、十分分かってはいたけど、これほどまでおばあ様が『妊娠』を期待されているのだと知って、とても申し訳ない気持ちにもなった。






もう、もう絶対にあんな思いはコリゴリよ~!!


と、徐々に緊迫していく空気にゴクリと唾を飲み込み、シンとヘミョンの様子を窺うチェギョンだった。




「シン。
 あなた、また今回も派手にやってくれたわねぇ~。」


先に口火を切ったヘミョン。
一層目を細め、シンを睨みつける目に力を込めた。




━先程の記者会見でのシンとチェギョンの超ラブラブな様子は、十数分後にはソウルに初雪!のニュースと共に放送され、瞬く間に世間へと知れ渡った。


お蔭で、またもネットは炎上、宮の公式HPはアクセスが集中し、システムダウンする事態となり、マスコミサイドからも追加のコメントを次々に求められ、その後処理や対応に、現在宮の広報部が奔走中、という訳だ。


人手が足りなくて、ただでさえいっぱいいっぱいで回しているところなのに!!!
シン!あなた一体どういうつもりよ!?


昨日今日と、シンは一人で全羅北道(チョルラプット)・群山(グンサン)市で公務の命を与え、予定では帰宮は今夜となるはず!


ヘミョンは皇帝殿へと公務の報告に上がってきた2人を捕まえ、今に至るという訳なのだ━。




ヘミョンにジトッと見つめられても、シンは痛くも痒くもないとも言わんばかりに堂々と背筋を伸ばし、右隣に座っているチェギョンの方へと右手を伸ばす。
その手を掴み自分の膝の上に乗せ、そして毅然とヘミョンを見返した。

チェギョンはこのシンの行動に驚き、この手を振りほどこうとするのだが、それに気付いたシンはますます力を込めてしまい、決して放そうとしない。



シン君っ!
お義姉様の、陛下の御前でなんてことを!




もうダメだぁ~、回避不可能!と、シンの隣でガックリと項垂れるチェギョンだった━。



チェギョンが大人しくなったところを見計らい、徐に口を開くシン。



「陛下。
 皇室は国民の手本。
 夫婦仲睦まじい姿を国民に披露することは、歓迎されることはあっても、非難されることはない筈です。」
「それは、まあ、そうだけど・・・・。」
「“夫唱婦随”。
 それを僕たちは、身を持って実践し、国民へ示しているに過ぎません。」



キッパリと言い切ったシン。
あまりにも堂々と言い切ったシンに、ヘミョンの顔は引き攣っている。



「で、でもね、シン。
 あなた、最近ちょっとやり過ぎじゃない?
 どこでも構わず、ベタベタ、イチャイチャ。
 世の中には恋人がいなくて、寂しい思いをしてる独身の人だってたくさんいるんだから!
 そんな人たちに、あなたたちのラブラブっぷりは正直“目の毒”なのよっ!」


憤慨したようにそう告げるヘミョン。
この言葉にシンは目を細めニヤリと笑う。


「・・・・・陛下のように、ですか?」
「なっ!?」
「シ、シン君ッ!!!」



キターッ!!!
チェギョンはシンの暴走を止めることができず、背中に冷たいものが伝う。
その顔はもう半泣きだ。


しかしシンは涼しい顔でこう続けるのだ。


「確かに、まだ“恋人”もいない人にとっては、僕たちの姿は“妬み”や“やっかみ”の対象となるかもしれません。
 ですが、国民の間でも“初雪”を愛する人と見て過ごすことは、“秋夕(チュソク)”を家族と過ごすことのように周知されたものです。
 今日くらいは許されるのではないでしょうか?」
「う・・・・・・。」



ぐうの音も出ないヘミョン。
そんなヘミョンを見て勝ち誇ったかのような顔のシン。 


「・・・・・・ということで、後の処理に関しては、すべて陛下の方で対処してください。
 僕たちはこれから、記者会見での約束を果たすべく“初雪デート”をしてまいります。」
「!!!」


この宣言に驚いてシンの方を見るチェギョン。
それに対し、ヘミョンはついに爆発するのだ。


「な!シンっ!
 ちょっと、あんたね~~っ!
 勝手なことばかり言って!
 私はね、せめて国民の目があるところでは、節度を守れって言ってるのよ!」



これに対し、シンも熱く反論した。



「姉さんっ!
 元はと言えば、姉さんがチェギョンと僕にワ・ザ・と・別々の公務を入れたのが原因だろッ!?
 僕が間に合ったからよかったけど、チェギョンは初めての単独公務だったんだ!
 恐怖心で今にも潰されそうだったんだぞ!

 これで失敗して、一層トラウマになったら、今後どうするつもりだったんだよ!
 幸せに過ごす初雪の日を、毎年、今日の会見での失敗を思い出す日にしてしまうことになる。
 僕はそんな悲しい思いを、チェギョンに絶対にさせたくなかっただけだ!」




ウ、ウソ━。

お義姉様?ワザとって???


それに、何?
シン君、私のために?
そんな想いを抱いて、急いで駆け付けてくれたの━?
“初雪”のためじゃなく、本当は、私のために━。




目の前で起こるべくして勃発した姉弟喧嘩。
徐々にヒートアップしていく2人の様子をボンヤリと眺めるチェギョン。
怒鳴り声も遠くへと消えていく。


そして、2つ瞳からはポロポロと涙が零れるばかりだ。


「・・・・・・ぐすっ・・・・・・。」


鼻を啜る音にハッとなるシンとヘミョン。
そこでようやく泣いているチェギョンに気づくのだった。



「!チェギョン?
 どうしたっ?!」
「チェギョン?
 あなた、泣いているの?
 ご、ゴメンなさい。
 つい興奮しちゃって・・・・・。」


途端にオロオロする2人。
チッと舌打ちをし、シンはヘミョンを睨みつける。
ヘミョンはシンに睨まれ、バツが悪そうな顔になった。



「本当にごめんなさいね。
 チェギョン。
 私は、貴方のためを思って、ただ、去年のTVの生放送のトラウマを一気に消してあげたかった。
 少々荒っぽいとは思ったけど、シンと離れた場所で、其々公務を受ければ、もう後はない、と覚悟して度胸も据わり、気持ちも切り替えられる、と思ったのよ。」



涙を流すチェギョンに対し、申し訳なさそうに、そう告白するヘミョン。
チェギョンは俯いたままその言葉に耳を傾け、ただ頷くだけだ。



「でもね。
 今日“宮中”がチェ尚宮を借りる羽目になるまで、追い詰められることになってしまったことは、私も予想外だった。
 私の立場上、宮を麻痺をさせる訳にはいかないでしょ?
 
 
 あなたはそれをよく理解してくれて、自分の方が不安で心細い思いをしていたのにも関わらず、快くチェ尚宮を送り出した。
 私は、本当にあなたの好意に感謝したわ。」
「お義姉様・・・・・。」



そう言い申し訳なさそうに笑うヘミョン。
チェギョンは真っ赤になった目でシンの顔を窺い見る。

シンはチェギョンの涙をその長い指先で拭ってあげながら、優しく見つめ返し、口を開いた。



「さて。
 姉さんの謝罪も済んだことだし、僕はチェギョンとデートするから、もう行くよ!」



“時間がもったいない”と言わんばかりに、掴んでいたチェギョンの手を自分に引っ張り、椅子から立たせ、腕の中に囲う。
一度その顔を覗き込むと、身を起こし、そっとチェギョンの背中に手を添え、一緒に部屋から出て行こうとする。



「ちょ、ちょっとシン!
 まだ、あなたへの私の話は終わってないのよ!
 あんたは待ちなさ~~~いっ!!」



その言葉にシンはピタリと足を止め、いつまで経っても折れないヘミョンを振り返り、口角を上げてこう告げた。



「ああ。言い忘れた。
 それと、もう一つ。

 姉さん。
 今後チェギョンは単独の公務を一切受けないから。
 そのつもりで。
 公務は夫婦2人で出席するモノだけにするよ。
 じゃ。」

 

シンはキッパリとそう言い切ると、ヘミョンに一礼して退出していく。
チェギョンは強引にシンに手を引っ張られ抗うこともできず、ヘミョンに何度もペコペコと頭を下げながら、引きずられるようにシンに連れて行かれた。




「シン!こんの~!
 ・・・・・・・・・でも、ま、いいわ。
 クスクス。
 この仕返しは、た~っぷりとさせてもらうわよ!
 お~ほっほっほっほ!」





ヘミョンの高笑いが、一際豪華な部屋に響き渡った━。






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皇帝殿を辞すと、積もるかと思われた雪は、ピタリと止んでしまった。




止んでしまったのだから、もう初雪デートは不可能!終わりだ!と言い張り、最後までゴネたシン。
このまま部屋に戻り、約束したあの続きへ・・・・と、どうにか持ち込みたいシンだったが、うるうると涙を零さんばかりの上目遣いでチェギョンに懇願され、ついに白旗を上げてしまったという訳だ。



この足元も悪く寒い中、これまた寒々しい水辺へとやって来た2人。
ソウルの中心を東西に流れる清渓川だ。



シンは黒のニット帽に黒のダウンジャケット、黒縁のメガネに、ジーンズにスニーカー、そして首にはあのチェギョンが編んでくれたダークグリーンのマフラーが幾重にも巻かれ、その不満そうにへの字に結ばれた口元を隠している。

相変わらず、服装には拘りがないシンは、防寒を目的とした完全武装の出立だ。


それに対し、チェギョンは白のベレー帽に白のダッフルコート、そして白のタイツに、キャメル色のムートンブーツというスタイル。
まるで白い雪ウサギのようだ。




2005年10月に復元して以来、市民の憩いの場として定着した清渓川は、ソウル中心部の光化門付近の“清渓広場”を基点に、鍾路、東大門、馬場洞あたりまでの全長5.8Kmある。

新踏鉄橋まで、途中には22の様々な橋がかかり、所々には噴水や滝、清渓川ミニチュア、散策路や探訪路などがあり、出会いと和合、平和と統一への願いが込められている場所であり、歩いているだけでも飽きない工夫を凝らした設計となっているのだ。


その清渓川のスタート地点となっている東亜日報社前の清渓広場は、741坪の規模でつくられた広場で、韓国伝統のポジャギがデザインに取り込まれ、様々な色の石材で舗装されており、韓国の伝統美を感じることができるものだ。


川辺の散策ロードは夜になると美しくライトアップされデートしているカップルや、家族連れで溢れ、たくさんの人でにぎわっている。


そんな人混みに紛れ、黒のシンと白のチェギョンは仲良く腕を組んで歩く。




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辺りがほの暗いことと、美しくライトアップされた清渓川の風景に気を取られがちなことも手伝って、幸い自分たちに気付く者はいないようだ。

水面に映り込み、ゆらゆらと揺れるライトを見つめ、漫ろ歩きをする2人。
キョロキョロと落ち着かない様子で、ライトアップされた幻想的な雰囲気を楽しんでいたチェギョンがここで口を開いた。



「ここにね、今日はどうしても来たかったんだ~。」
「・・・・・なぜ?」


部屋から連れ出されたことをまだ根に持っているシンは、不機嫌そうな顔を隠そうともせずチェギョンを見下ろす。
そんなシンの拗ねた態度にクスリと笑みを零すチェギョン。



「ここはね。
 ソウルの“パワースポット”なんだよ?
 清渓川は“悪運を洗い流してくれる川”、そう言われているの、シン君、知らないの?」
「さあ、聞いたことがない。」




いつものように世間の事情の疎さを堂々と口にするシンに、チェギョンはだよね~とガックリと項垂れた。


私の皇子様が、浮世離れしているのは、しょうがないことだ。
この部分は私が一生を掛けて教育をし鍛えなければならないのだ。

チェギョンは開いている方の手で拳を作ってうん!と頷く。



「“パワースポット(power spot)”とは、地球に点在する特別な“場”のこと。
 エネルギースポット、気場とも言う━。」



「へ?
 な、何?
 いきなりどうしたのシン君?」



いきなり口を開いたシンを不思議そうな顔で見つめるチェギョン。
シンは開いている方の手で口に掛かっているマフラーを下げ、口角を上げ歩みを止める。
そしてチェギョンの手を掴んて引き、自分の正面に向き合う形でチェギョンを立たせた。



「パワースポットはエネルギーが常に変動しているんだ。
 訪れる時のタイミングでその効果にも大きく影響する。
 まず天候。
 これは晴れている日がいい。

 ははは!
 今日は“初雪(チョンヌン)”だったよな?」
「・・・・・・・・。」



「・・・・・次に、時間。
 午前中のほうがパワーが集約されているから、午後に行くよりも早い時間のほうが効果があると言われる。
 絶対に避けたいのは負のエネルギーがある“夜”だそうだ。
 
 ・・・・・・今は、何時だ?」
「げッ・・・・・・・・。」



確かここに着いたのは18時過ぎだ。
ソウルの冬は日没が17時過ぎだから、太陽はとっくに沈んでしまっている。
もう“夜”・・・・かもしれない。



「そして・・・・・・・。」
「えええ?まだあるの!?
 もう十分分かりましたッ!
 ここに居ても、意味がないって、結局、シン君はそう言いたいんでしょッ!?
 もうそれ以上否定的なこと、言わないでぇ~!」


半泣きのチェギョン。
しかしシンはクスリと笑いながらそのまま続けるのだった。



「どんなパワースポットを訪れた時でも、その日は必ず充分な睡眠を取っておくことが大切だと言われる。
 心身ともにエネルギーを活性させるため、また、吸収したエネルギーを自分の中に収めておくため、質の良い睡眠がとても大切だとされている。
 
 そこで、だ。
 おまえ、昨夜は眠れたのか?」



そう言い、空いている方の手をそっとチェギョンの頬へと伸ばすシン。
チェギョンは頬を優しく包むシンの体温を感じると、目を閉じ、僅かに首を横に振り、俯く。



「眠れなかった、よ。
 だって、いつも隣にいるシン君がいないんだもん。
 それなのに、眠れるはずがない。」



一人ぼっちの夜はマカオで過ごした夜を思い出すから━。


その言葉を飲み込み、シンの胸にコツンとおでこをくっつけてくるチェギョン。



遠く離れた地で、お互いを恋しく想い、その愛しい存在を求める余り、一人ぼっちで震え凍えそうだった心。
あの辛い記憶は、時間が許す限り寄り添い合い、言葉を交わし、素肌を合わせることで、少しずつ薄れて行ってはいるものの、チェギョンの中では、まだ完全に消えることはなく、根深く残っているのだ。



全ては、過去の不甲斐ない自分のせい━。



シンはたくさん傷つけてしまったチェギョンを労わる様に、頬を包んでいた手を、今度は後頭部に回し、胸に強く引き寄せ長い艶やかな髪を手で何度も撫でるのだった。



ごめん、そう伝えたくて。
そして、もう二度とそんな寂しい夜は過ごさせない、そう伝えたくて。




チェギョンはゆっくりとシンから離れ、真っ直ぐにシンを見つめ返した。



「シン君、今日はありがとう。
 シン君が来てくれなかったら、私、また大失敗をするところだった。」
「・・・・・・・・。」
「はあ~。情けない。
 どうして私って、いつもダメなんだろう?
 いつになったら、シン君やヘミョンお義姉様みたいに、完璧にこなせるようになるのかな?」



寂しそうに笑い、俯くチェギョン。
シンはギュッと心臓を掴まれるような痛みを感じる。



「チェギョン。
 おまえが人一倍努力していることは、みんな知っている。
 だから、もう自分を卑下するな。
 急いで完璧を求めるな。
 おまえは、おまえらしくあればいい、そう言っただろ?」
「うん・・・・・。
 分かってるよ。
 でも、ね。
 シン君やお義姉様に、迷惑をかけちゃったら、と思うと、どうしても怖い、の。
 怖くて・・・・」
「チェギョンッ!!」


もうこれ以上、何も言うな━!


シンはシンはそう言う代わりに、髪を撫でていた手で後頭部の髪を一握り掴んでチェギョンの頭を上向きにし、その唇に自分の唇を重ねた。





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・・・・・to be continued vol.5




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